関係を構築する

技能検定では【関係構築力】として区分されていますが、関係構築は当然のことですが試験のためにあるのではなく、面接の際に必要なコンピテンシーなので合格不合格にかかわらず学習は必須です。もちろん多くの方は試験というものがあるでしょうから、否応なく身につける必要があるのですが・・・ここではロジャーズ=ジェンドリンによる絶対傾聴での関係構築を取り上げます。なお、関係構築は別に絶対傾聴でしか行えないものではありません。家族療法ではジョイニングjoinningとしてテクニカルに同様の考え方がありますし、私は承知していませんがコーチングやNLPなどにはペーシングとしてあるのではないでしょうか。

※なお私は単に「関係」と記述したり言ったりしています。「関係性」と呼ぶ人もいるのですが、そしてそのことを非難するつもりはないのですが、私個人は「関係性」と言うと精神分析の用語を色濃く連想してしまうのです。”Relational TA”=関係性交流分析、”Ralational Gestalt”=関係性ゲシュタルト(もしくは関係対話療法)などなど。ですのでここでは単に「関係」と記します。

ある時、検定2級を受検される方の練習のお手伝いをしていた時のことです。2名の方が検定を受検するというので、交互にキャリアコンサルタント役とクライエント役をされていました。その時のやり取りを聴いていて、不思議な感覚を覚えました。正確ではないですが、こんな感じだったでしょうか。

CL「夫が単身赴任を言われて、どうしていいかわからないのです」

CC「どうしていいかわからないのですね」

CL「本当に困ってしまって」

CC「とてもお困りなんですね」

・・・一見、普通の応答のように見えます。この時の言葉のトーンや大きさまでは伝えられませんが、キャリアコンサルタントも困っているクライエントに「寄り添って」応答はしていたのです。しかしこのキャリアコンサルタントの応答に、私はどこかよそよそしさを感じたのです。キャリアコンサルタントが「寄り添って」いたのは間違いありません。変な応答でもありません。にもかかわらず、どこかに距離感とでもいうべきものを感じたのです。この当時の私は、違和感を感じたものの具体的にどこがどうなのかを言語化して修正することができず、理論的な説明もすることができませんでした。その後色々な人の意見を聞いたり、セミナーや勉強会に出たり、自分で資料を調べたりしてみました。他にも関係構築のやり方があることは書いたとおりですが、今回は絶対傾聴をひとつのヒントとして取り上げます。

絶対傾聴 Absolute listeningは聞きなれない言葉かも知れませんが、ジェンドリンの「フォーカシング」(日本語訳は福村出版)に「リスニングの手引き」The Listening Manualとして書かれています。リスニングの手引きは、次の4つから成り立っています。

[1]話している最中に<フォーカシングという過程>が話し手の内に起こるようにする援助方策

[2]聴き手の話し手に対する気持ちや反応を利用する援助方策

[3]相互作用という援助方策

[4]グループ(小集団)での相互作用という援助方策

絶対傾聴は、このうちの[1]に含まれ、2つの要素があります。

A:絶対傾聴

B:フェルトセンスが感じられるようにする応答の仕方

キャリアコンサルティング(キャリアカウンセリング)においてフェルトセンスを取り上げることは正直すくないと思うので、まずは絶対傾聴を考えます。絶対傾聴において重要な点はたった1つと言っていいでしょう。それは「聴き手(カウンセラーまたはキャリアコンサルタント)が、理解したとおりに伝え返す」のです。養成講座や各種講座の講師の先生によっては「クライエントが言った言葉を伝え返す」と学習するかも知れません。その是非はここでは論議しませんが、絶対傾聴では「理解したとおりに伝え返す」ことがポイントです。

練習方法としては、上に書いたことを覆すようですが、まずは

「話し手が使った言葉をそのまま伝え返す」

ことをします。(あくまで練習方法です)レベルアップすると今度は

「話し手が表現しきれていないものを指し示すようにリフレクションの応答を行う」

ことをします。すると、当然話し手の言葉と聴き手の言葉は違ってきます。これは、ジェンドリンにおける絶対傾聴では、聴き手が話し手の体験の「暗在的側面を感じ取って」それを言葉にすることに重きをおいているからです。このとき技法としては「追体験と交差」が必要になるのですが、すべてを一気に学習することは難しいので、「話し手が使った言葉を理解して、表現しきれていないものを伝え返す」ことを意識して練習してみてはどうかと思います。(「追体験と交差」については、別途トレーニングの必要があると思われるので、ここでは詳述しません。また「暗在的側面」というフォーカシングの専門用語が入ってくるので、関心のある方は是非学習してみて下さい)

関係構築の練習はひとつではありませんが、私が技能検定を受検される方のお手伝いをした経験から、「言葉を伝え返す」ことからもう一歩進んで使えることを学ぶことも必要かと思いここに書きました。

(本エントリーは、池見陽編「傾聴・心理臨床学アップデートとフォーカシング」、ユージン=ジェンドリン「フォーカシング」を参考にいたしました。また「追体験と交差」については、池見陽「体験過程が心理療法論に及ぼす根本的なインパクト:二種の交差の検討」http://www.akira-ikemi.net/AkiraIkemi-Net/index.html_files/2crossingsJP.pdf を参照してください。)